<川柳 (ユーカリ川柳道場)>

    2018年   9月(兼題:残る、相談)

                 さよならとあっさり別れ残る悔い      (言えばよかった)

                 大いなる借金残し逝く親父         (地獄?極楽?)

                 相談とは金を貸してという話        (やっぱり)

                 相談は後に回してまず一杯         (まあまあまあ)

                 あと3年またあの顔を見にゃならぬ      (見たくもないけど)

                 ”正直”のことば辞書から削除され      (言論統制?)





    2018年   8月(兼題:限度、光る)

                 ごまかしもそれが限度よ厚化粧       (それなりがよし)

                 限度なく続く災害天怒る          (地震、台風)

                 光る汗拭いてあげたい夏の午後       (猛暑極まる)

                 光るだけ光って空し蛍舞          (漆黒に消える)

                 嘘つきを信頼せよとのお言葉か        (無理難題)

                       





    2018年   4月(兼題:包む、道)

                 真実を包み隠して財務省          (隠蔽省?)

                 本心は包んで隠す妻の前          (本音は言えず)

                 安倍政権 道をはずれた人ばかり      (出るわ出るわ)

                 道を行く探さないでと言い残し       (わが道を行かん)

                 通り抜けの喧騒よそに船遊         (都びと)

                 休日のビジネスパーク桜散る          (しづ心なく?)





    2018年   3月(兼題:テープ、失う)

                 録音はテープに限るアナログ派      (いまだ健在)

                 きょう日ならテープだらけの切られ与三  (見せびらかし)

                 失った財布はどこだポケットだ      (身に覚えあり)

                 失った記憶探して日記帳         (茶飯事?)

                 落城の秘話をのこして梅かおる      (大阪夏の陣)

                 大阪城背景にして梅見ごろ        (城、春にして)

                 安倍城は落城まぢか春の陣        (乞う、ご期待)





    2018年   2月(兼題:そろそろ、座る)

                 反戦を貫き通し兜太逝く         (巨星墜つ)

                 八十路超えそろそろ迎え来てもよし    (見るべきほどのものは見つ)

                 立てば座れ座れば寝よの孫こころ     (いつまでも)

                 優先席よろけて見せるしたたかさ     (敵もさるもの)

                 妻の座に危機感もなく座りおる      (敵もさるもの2)

                 消火栓年に一度の晴れ舞台        (どちらかと言えば観光)

                 水煙インスタ映えの山の里        (写真家どっと)





    2018年   1月(兼題:洗う、首)

                 マフラーとマスクで隠す無精ひげ     (冬万歳!)

                 首くくる紐切れること確かめて      (誰に当てつけ?)

                 洗っても拭っても尚こころ傷       (いつまでも)

                 犯人の身許洗えば上司の子        (どうしよう?)

                 昔日の栄華をしのぶ運河道        (今は観光)

                 ロシア語の看板もある小樽港       (ウオッカあります)





    2017年  12月(兼題:叩く、夕陽)

                 減らず口たたいて過ごすわが余生     (楽隠居?)

                 孫たちが肩たたき券くれたけど      (有難迷惑)

                 夕陽から元気もらって明日もまた     (いつまでも)

                 夕陽をば見送って次おれの番       (落日)

                 山男およびでないというホテル      (上高地帝国ホテル)

                 ホテル前通り過ごしてキャンプ場     (俺たちゃ街には・・)





    2017年  11月(兼題:忘れる、椅子)

                 物忘れ自慢しおうて時忘れ       (話は尽きず)

                 忘れ物探しにきたことまた忘れ     (要やり直し)

                 答弁は嘘で固めて長官に        (国税庁)

                 紅葉を見上げて石段踏み外す      (足元大事)

                 全山真っ赤、うちは家計も真っ赤です  (同じ赤でも・・)





    2017年  10月(兼題:どっぷり、揺れる)

                 ぬるま湯にどっぷり浸かるマイライフ  (まだ続く)

                 効きそうで首まで浸かる薬師の湯    (温泉療法)

                 ゆらゆらと水の面の限りなく      (方丈記?)

                 恋文の心が揺れて字も揺れる      (わが青春)

                 摂河泉分ける尾根筋枯れすすき     ()

                 薄原大和盆地は霧の下         ()





    2017年  9月(兼題:汗、開ける)

                 前原は小早川秀秋だった        (言いえて妙、O氏の言)

                 汗かいて汗拭いてまた汗をかく     (拭いても拭いても)

                 解散のひとことだけで脂汗       (もりかけ隠し)

                 開いたり閉じたり晴雨兼ねる傘     (必携品)

                 憲法を開く気もなく変えたがる     (安倍晋三)

                 駅前にしては枚方寂しすぎ       (枚方、Tサイト)

                 キュービックゲームのように触りたい  (枚方、Tサイト)





    2017年  8月(兼題:時計、投げる)

                 ヒロシマは忘れぬ8時15分      (亡父をしのぶ)

                 時計など捨ててしまえと世捨て人    (捨ててのんびり)

                 待ち合わせあの子はいつも時計無視   (じゃじゃ馬)

                 身の回り時計だらけのデジ時代     (デジタル時刻表示)

                 できた句をホントに投げてみようかな  (投句って?)

                 問題を見てすぐ投げる悪い癖      (諦めが肝心?)

                 かき氷わたしの分も残してね       (4人で仲良く)

                 浴衣着て何をひそひそ娘たち       (夏祭り)





       ***************************



    2016年 12月(兼題:我慢、記憶)

                 お互いに耐えに耐えたり半世紀     (好敵手?)

                 我慢せずストレスためず長生きだ    (これしかない)

                 年々に記憶容量減っていく       (脳細胞)

                 別れてのち思い出すのは相手の名    (歯がゆい)

                 山といい川と応えるパスワード     (忠臣蔵か)

                 撮り鉄も乗り鉄もいて塩小路    (鉄道博物館)

                 花形が回り舞台に揃い踏み        (扇形操車場)





    2016年 11月(兼題:砂、宴会)

                 因幡路に砂の女と巡り遇う       (阿部公房の世界)

                 目覚めるとテレビは映す砂嵐      (炬燵でアナログテレビ)

                 飲み放題それが曲者元とれず      (老人ばかり)

                 そろばんも帳簿もすてて飲み明かす   (酒が人生?)

                 さすらいと酒と句作の山頭火       (けふはここで寝るか)





    2016年 10月(兼題:すっかり、涙)

                 おつむ皆すっかりはげて同期会     (ご同輩)

                 断捨離で我が家すっかりただの箱    (虚しすぎる)

                 泣くときも笑う時でも老二人       (よく耐えた)





    2016年 10月(枚方市民川柳大会)

                 世の中にゃ言うてええこと悪いこと   (兼題:悪)

                 この世間悪い奴ほどよく貯める     (兼題:悪)

                 彼女去り独りぼっちが好きなんだ    (兼題:孤独)

                 人間もネットも嫌い孤独好き       (兼題:孤独)

                 モラルとは思いやりだと見つけたり   (兼題:モラル)

                 秋祭ふとん御輿で寝てみたい      (兼題:祭)

                 ギャル御輿待ってましたと野郎ども   (兼題:祭)

                 究極の訳あり物件この地球       (兼題:訳)

                 お結びを持たされ今日はどこ行こか   (兼題:結ぶ) 



    2016年 8月(課題:燃える、自信 ほか) 

                燃える恋50年後はあんた誰?        (虚し)

                その昔燃える恋などあったかも         (カルピスの味)

                おずおずと出して見るなり自信作       (謙虚)

                 衰えていくことにのみ自信あり       (下り坂)

                夏休み水族館は稼ぎどき           (大入り)

                イルカショー水族館の目玉です        (人気)



    2016年 7月(課題:悪人、読む ほか) 

                完璧の悪人なんかいやしない              (救い)

                老いてなお人を惑わす悪い人               (気になる人)

                読むものは川柳のみとなりにけり           (読書人?)

                空気読むことにたけてる苦労人             (右顧左眄)

                人と鵜と心通じるお付き合い              (鵜匠と鵜)

                向かい合う阿吽の呼吸合いました           (名コンビ)



   2016年 6月(課題:森、宝ほか) 

                これがまあ俺の宝か古女房                (今後ともよろしく)

                子宝も行きつく先は要介護                (輪廻)

                宝くじ収支損益見てみたい               (ぼろ儲け?)

                森の精 近づき見れば山ガール            (かわいい!)

                 キノコ採り森の熊さん出ないでね           (怖い)

                 花の輪をくぐって行けば梅雨明ける          (待ち遠し)

                 バラの花 棘を隠してひとを待つ         (危険!)



   2016年 5月(課題:踊る、鈴ほか) 

                踊り場で動悸鎮めて深呼吸                (よる年並み)

                シャル・ウイ・ダンス 胸に触るな足踏むな      (初心者)

                 猫に鈴、誰かつけてよ、わしゃいやや        (無責任時代)

                 徘徊に名札をつけよ鈴つけよ             (認知症)

                 もと秘境いま観光地つぎは何?           (合掌集落)

                 世界遺産観光業に大わらわ           (変幻自在)



   2016年 4月(課題:電気、趣味ほか) 

                案の定、三日坊主のウオーキング           (WHO? 1)

                無趣味という趣味でございとごろ寝する       (WHO? 2)

                 電気つけテレビもつけて夢の中           (これでは、ね)

                 電気代かさんで細る老いた脛            (限界に)

                 人生の果てしない旅まだ続く          (人生は旅)

                 船旅を終えてメタボを持ち帰る          (食っちゃー寝)



   2016年 3月(課題:広い、うやむや、ほか) 

                有耶無耶と融通無碍で生きてきた         (今後もこれで)

                有耶無耶のそんな審議で委員会?         (戦争法)

                 広言を吐露して得意トランプ氏        (和製も健在)

                 いつどこでテロに遭うやらこの地球        (逃げ場なし)

                 説法を避けて通るや古都の春          (近鉄奈良駅)

                 知らんけど盛者必衰会者定離          (行基上人)



   2016年 1月(課題:どっぷり、挑む、ほか) 

                先代の罪を償う比島旅            (遅すぎる)

                太陽に挑むイカロス今もなお        (諸行無常)

                 挑むこと忘れのほほん喜寿となる      (ご同輩)

                 いずれなる総活躍は総動員         (安倍政権下)

                 どっぷりと猿も湯あみの地獄谷       (いい湯だな)



   2015年 12月(課題:縄、負ける、ほか) 

                 縄のれんくぐればさっき別れた仁       (お互いさま)

                 縄飛んでタマが見えたり隠れたり      (隣の塀の上)

                負けは負け負けるが勝ちというけれど     (現実)

                 負け惜しみたまにはあるさこんなこと      (よくある)

                 後朝の別れ惜しんでケルン水          (夢)

                 残り香のせいで我が家に嵐吹く        (色男? )



   2015年 11月(課題:まったく、開ける、ほか) 

                開けるとも開けないともいう玉手箱     (あけてびっくり)

                開いても開いてもなおパッケージ      (プレゼント)

                 マイナンバー全くわからんことばかり     (大丈夫?)

                 府・市ともに全くもってやり切れぬ       (ダブル選挙)

                 胸襟を開けば通じる道もある        (話せばわかる)

                 花頭窓そとに織りなす錦あり         (禅寺)



   2015年 10月(課題:椅子、注文、ほか) 

                体重に耐えかねたらし椅子こわれ     (メタボ)

                妻の座は危ういかもと言ってみる     (言うだけ)

                 人生の椅子取りゲーム蚊帳の外       (わが道行く)

                 腹減った早う注文聞いてくれ        (ファミレス?)

                 注文を聞いて始めるネタ探し       (ほんまもん)

                 世の中は注文通り行かぬもの       (世のならい) 

                惜別の想いを秘めて訪ね来る       (屋敷と人力車) 



   2015年 10月(枚方市民川柳大会) 

                とぼけてもとぼけ切れないメール来る  (兼題:とぼける)

                 真実は斜に構えると見えるもの      (兼題:斜め)

                 真ん中が無難な道よ風見鶏       (兼題:無難)

                 平和とは不戦のことよアベ総理     (兼題:平和)

                 戦兆す70年の平和捨て          (兼題:平和) 



   2015年 9月(課題:自慢、借りる、ほか) 

                自慢した川柳コピペとすぐバレる     (ネット社会)

                 自慢顔、”自慢じゃないが”と前置きし    (枕詞?)

                 数の威を借りての暴挙許すまじ      (戦争法案)

                 借りてきた猫におびえるうちの犬     (それでも番犬?)

                 ほおずきに魅せられてつい回り道    (ほおずきの写真を見て) 

                ほおずきの笛を鳴らした幼い日      (ほおずきの写真を見て) 



   2015年 8月(課題:疲れる、ブレーキ、ほか) 

                ノーブレーキ ”アイアムソーリ” アベソーリ     (どこへ行くやら)

                 黒を白、解釈自在 アベソーリ     (憲法九条)

                 手ひねりの茶碗使って手に疲れ    (自作は、いとおしい・・されど)

                 疲れても登らにゃならぬ老いの坂   (つろうおまっせ)

                 花火一発、社の杜へ散華する     (神社の花火の写真を見て) 

                熱帯夜しばし忘れるページェント   (神社の花火の写真を見て) 



   2015年 7月(課題:さっぱり、星座、ほか) 

                巨星墜つ、日本の良心ひとつ去り     (鶴見俊輔没)

                 なぜ急ぐ、さっぱりわからん戦争法    (安倍戦後最悪政権)

                 帰宅して服脱ぎ棄ててシャワー浴びて   (汗しとど)

                 星座とは縁なき暮らし70余年   (ロマンなし)

                 テント出て満天の星いばりする  (アルプスにて) 

                気をつけて、砂の女に遇わぬよう  (鳥取砂丘のの写真を見て  阿部公房) 

                砂と空、上に登れば日本海   (鳥取砂丘の写真を見て  砂、空、海) 



   2015年 6月(課題:抱く、滑る、ほか) 

                野望抱くわが宰相の”わが闘争”  (ヒトラーが先生?)

                大志抱く昔の自分いまいずこ  (なれの果て)

                雨の日は滑らないでね骨粗しょう症  (愚妻に)

                国会の答弁すべて上滑り (木で鼻をくくったような) 

               下の児は上に向かって”早よしいな” (組体操ピラミッドの写真を見て ”重たいがな”) 

               ベランダに望遠レンズ孫ねらう  (組体操ピラミッドの写真を見て  よそのじいじ) 



2015年 5月(課題:弾む、きずな、ほか) 

                意気投合弾む話に降り損ね (一駅先まで)

                絆とも腐れ縁ともわが夫婦 (そんなもんです)

                比良伊吹はるかにのぞむ舟遊び (水郷巡りの写真を見て)


<近作>

2015年 新年 

                賀状来ぬ人の安否を思ひけり

                年賀状今年限りと書き添ふる

                老夫婦二人のみなる去年今年



2014年冬 

      数え日や五年日記もあとわずか

      数え日や放蕩息子の帰へり来て

      虎落笛ものともせずに聖歌隊

      ひた走る夜行列車や虎落笛

     トタン屋根吹き飛ばさんと虎落笛

     小春日や思ひ出したり忘れたり

     小春日や猫嫌いと猫がゐて

     上人の腰掛石や石蕗の花

     小春日やこれも円空木っ端仏



2014年秋 

          熊出ると立札出して茸山

          熊楠の護りし森や茸狩

          中辺路も道半ばにて後の月

          厚化粧して我招く毒茸

          山小屋のリットル100円秋の水

          漁りて輪中の親子秋の水

          唐黍の畑に烏の乱舞する

          べそかいてあの子どこの子地蔵盆

          野分来て大道芸の店じまい

          避難所は呉越同舟野分来る



2014年夏 

極暑にも耐へて臼杵の磨崖仏

下山して極暑の中に戻り来し

心頭を滅却するも極暑なり

エアコンを拒みて耐へる極暑かな

沈黙のいつまで続く水中花

           短夜や解釈変えて九条滅ぶ

           短夜や旅に欠かせぬ薬入れ

           短夜や夢の続きは今夜見む>

           明け易し夜明けに浸かる露天の湯


2014年春

草笛は得意なれども恋苦手

草笛のひとたび鳴りて続くなし

青白く湾光らせて蛍烏賊

鉦・太鼓・笛にぎやかに壬生念仏

出窓から子犬のワルツ花水木

茅屋も住めば都よ花水木

             薄氷を踏みしだき行く猫車

             薄氷をつまみて見せに来る子かな

             春近し幼な声する糸電話

             スキー靴脱ぎて湯宿の客となる

             ゴンドラの下ゆく林間スキーヤー

             弁護士の風呂敷包み春隣

             セーターより首出して一日始まりぬ


2014年新年 

             不器用な生き方のまま年迎ふ

             断捨離も中途半端に年迎ふ

             湯に浸り初日を仰ぐ山の宿

             病む人に出すか出さぬか年賀状

             白魚の指にお手つき歌かるた

             明日からは後期高齢去年今年

             徒に馬齢かさねて去年今年


2013年冬 

        冬の日を障子に受けて志野茶碗

        新聞紙拡げ爪切る冬日和

        難問に咳をもて応えけり

        開演の前のしじまに小さき咳



        木の葉髪ともに過ごせし幾星霜

        度忘れも日常のこと木の葉髪

        木の葉髪トイレは近くなりにけり

        環濠の橋を渡りて親鸞忌


2013年秋 

             出世頭の彼奴も逝きしか温め酒

             人生の残りはおまけ温め酒

             ここだけの話ばかりの温め酒

             温め酒とどのつまりは膝枕

             稲架襖豊葦原の中つ国


廃屋と見えし軒にも吊るし柿

鎖樋濡らすでもなく秋の雨

吊るし柿残して主逝きにけり

ポケットに残る半券秋の雨

捨て台詞残して去りぬ秋の雨


                  切り通し抜けて鎌倉竹の春

                  マンションと隣合せの竹の春

                  虚無僧の現はれさうな竹の春

                  足許に潮満ち来たり根釣人

                  岩礁を猿のごとく根釣人


2013年夏

             留守電に訃報の届く晩夏かな

             箪笥より米穀通帳夏深し

             遠近に爪痕残し梅雨明ける

             梅雨明けて歩荷の荷物天を衝く

             本尊は歓喜天とや合歓の花


                        箱庭にガリバーのごと振る舞へり

                        片蔭の行きは左に帰り右

                        箱庭の枯山水に箒の目

                         老鶯や大台が原に雨あがる

                        青芝や放置されたる猫車

2013年春

                        余呉の湖そぞろ巡りて春惜しむ

                        すんなりと聞けぬ話よ桜漬


2012年冬

                  熱燗や思い出せないその名前

                熱燗や紅殻格子に京ことば

                 熱燗やお国なまりの飛び交える

                 訪ね行く飛鳥大仏冬田道

                甘樫の丘の麓の冬田かな



                 磐座もただの大岩神無月

                柊の花の香れる東司かな

                 けふもまた喪中ハガキや神無月

                 花柊その棘をもて何拒む



                 しばらくは頼るあてなし神の留守

                悪しきことたくらみもして神の留守

                茶の花や猫に垣根のなきがごと

                 色街の面影かすか柳散る

                 椋鳥の飛び去りし後過疎の村



                 雑兵も公達も聴く虫時雨

                餓島とも呼ばれし島や海は秋

                耕して天に至る田 秋の海

                 芒原果たし合いなどありしとも

                老眼にルーペ重ねる夜長かな



                    迎鐘あの世の沙汰は鐘次第

                   描割のごとく懸りて盆の月

                   夜汽車いまいずこ走るや盆の月

                   住職のつむりにも似て盆の月

                   決心は日々新たなり日々草

                   試合終え呉越同舟暑気払い



                喘ぎつつ尾根筋行けば青葉風

                青簾佳人薄命今昔

                青簾夢二はここに生まれけり

                 豆腐屋の喇叭過ぎゆく古簾

                五月雨や我に残りし他人の傘

                紫陽花や路地に干したる傘二つ

                源流を極める山路山女釣

                客は皆山男なり山女宿

                深緑を行けば二の滝三の滝

                                 


              花の種うまく咲かねば癪の種

              陽炎の彼方に浄土あるがごと

              地震ありてみちのく未だ春見えず

              猫歩くシャッター通り冴返る

              駅前の放置自転車冴返る

              冴返る李朝白磁のほの明かり

                     


                    花粉症かと思ひきや春の風邪

                    診る人も診られる人も春の風邪

                    春の風邪ティッシュ配る人探す人

                    多寡が風邪されどしぶとき春の風邪

                    寝込んではおられぬほどの春の風邪

                    春の風邪不義理の理由(わけ)となりがたく



                         松の内 財布に残す五円玉

                        遅れ来てやや改まる御慶かな

                        まあだだよ声するところ花八つ手

                        継ぐ人のあてもなきまま冬耕す

                        足腰の立てる限りは冬耕す

                        探鳥の人影動く冬木立ち

                        カサと鳴りコソと応へる冬木立ち


                柚子味噌とおにぎりだけの昼餉かな

                狼藉の盗賊のごと野分来る

                脱藩の道遠くして菊人形

                菊師とて意のままならぬ薩と長

                落人の伝説秘めて葛の橋

                我思ふ故に我あり流れ星

                ゆるキャラも中は地獄よ汗しとど

                   

                   風吹いて又三郎現(あ)る青田かな

                   青田ありてこそ豊葦原の瑞穂の国

                   山頭火ふうの人来る青田道

                   蚊取香尽きても法話続きをり

                   路地裏も住めば都よ新茶古茶

                   五月闇てふ玄関の暗さかな

                   こいのぼり女先生腕まくり




                爺婆に連れられてくる新入生

                列にありて親に手を振る新入生

                お下がりのランドセル負い入学す

                落研のチラシ片手の新入生

                禿げたるも白髪もあり入学式


       献立に困ったときのおでんかな

       開会の辞、咳払いよりはじまりぬ

       咳ひとつ残して刑事立ち去りぬ

       木枯らしやさまよふ人と探す人

       刀折れ矢も尽き果てて枯蓮


   帰り花これも小さなルネッサンス

   勲章と縁なき日々や文化の日

   浅漬や腹八分目はあしたから

   団栗を持ち帰っては見たものの

   ベルト穴ひとつ分だけ夏痩せて

   メタボとは縁なき躯体あめんぼう


                古今集繙きもして業平忌

                 柳絮舞ふ万有引力否定して

                その先の苦難も知らず巣立鳥

                バラ科とはつゆ知らざりし桜狩

                春の雪冬虫夏草の気配して

                白魚の指にお手付き歌かるた

                不精ひげマスクで隠す定年後


          水餅や水の命をもらひつつ

          寒鴉屋根から屋根へ忍者めく

            柚湯出て無病息災相違なし

          願ひごと数々あれど神の留守

          目張していよいよ狭き四畳半

          新蕎麦やあるじ名うての頑固もの

          若武者の鎧ふがごとく新松子


                若冲の羅漢集へる竹落葉

                何食ひて斯く痩せてをるあめんぼう

                あめんぼう己が軽さにとまどへる

                落城の物語秘め花の山

                わが街は坂多き町花ミモザ


           こと多き世相そのまま変わり雛

           欠けたるは欠けたるままに雛調度

           食卓は同じ顔ぶれ去年今年

           むしってもむしってもなお草しらみ

           秋日傘スクランブルの交差点

           雪折やまたぎの村は黙の中

           草いきれ天下分けたる古戦場


              草いきれ治部少輔が夢の跡

              四万十の流れのままに船遊

              一様にライフジャケット船遊

              飄々と生きるががんぼ我に似て

              ひと叢の茂隔つる湖と村



     <春>       四月馬鹿笑いこらえて切り出しぬ

           悪ガキは悪ガキのまま卒業す

            広辞苑まくら替わりの春炬燵

            古着屋と隣り合はせの植木市

            落椿 屋敷ひと手に渡りたる

            陽炎や いつかどこかで見たる景

            麓より咲き登り来て花の山

            行在所跡とは名のみ花の雨

            遠足の 先生よりも大きな子

            春の蚊のぶんとも言はず漂へり



 <夏>           夏霧や連絡船のアナウンス

               パソコンもつけっぱなしの寝冷えかな

               バス停まり残暑の中へ降りたちぬ

               かぼちゃ食ひ納豆食へぬ朝餉かな

               民宿の朝、目玉焼きわかめ汁

               オリーブの葉のきらめきて初夏の海

                 国道をずたずたにして梅雨出水

               梅雨明けや寝苦しき夜のEメール



 <秋>   新米をたらふく食うて文句なし

       秋高くこれも円空木っ端仏

       十薬や庭の隅なる犬の墓

       旅の恥掻きすてんとて盆踊

       奇兵隊決起の地とや法師蝉

       綿菓子か金魚掬ひか迷へる子

       草紅葉 元亀天正夢のあと

       大夕焼け魑魅魍魎を焼き尽くす

       ずっしりと自作の湯呑み彼岸花

       野分立ち ふと胸騒ぎする朝

       言ひたきこと未だ言ひ出せず秋扇



 <冬>     冬蝶のからくも越ゆる垣根かな 

         狼藉の跡なまなまし寒鴉

         薄氷を踏みて朝刊配り来し

         おでん屋の馴染みの客となりにけり

         石仏をあまた抱きて山眠る

         職退きし身にも勤労感謝の日

         老犬の腹見せて寝る小六月

         奥院は問ふ人もなし 藪柑子

         壮年の一人も見へず池普請

         蓮根堀休らふこともままならず

           神農の虎の威を借る術もなく

         着ぶくれて切符をどこにしまひしや

         姉三に六角過ぎて歳の市

         寄り添ひて外湯めぐりの懐手



 <新年>       賀状きてEメールきて人も来て

              初刷のずしりと重く届きけり

              七種を啜りて草の名を知らず

            借りて行く宿の長靴 初詣

            奥の院 人影絶へず初不動



<家族>      四月馬鹿に非ずと妻は前置きし

          ガラス戸を寒さしみ来る妻の留守

          妻留守の言はれしままに目刺焼く

          こころなき妻のひとこと熱帯夜

          切干や 母とは違ふ妻の味 

          薮入りの如く娘の戻りけり 

          父よりも長生きしたり原爆忌

          かの時と同じ青空 原爆忌

          道端に黙祷ささげ原爆忌



 <山、雪>        共同湯 登山靴の並びをり

               飛騨信濃分かつ稜線 雲の峰

               雪渓の踏み跡たどるガスの中

                 遥けくも 来たりし夏の縦走路

               連れ添ひて猿も湯を浴ぶ雪の中

               雪山へ四輪駆動の轍絶ゆ

               今朝またも 蔵王を隠す春吹雪

               道標の傾きしまま山眠る





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